(間章)――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

公立夢殿高校。ここにはすべての異常が集まっていた。

異常が異常を呼び、重なり、折り合い、そしてそれは日常となり、世界の真実として

回り続ける。故に危ういのだ。この世界は。蒼天井まで積み上がった異常という名の積み木は今、微妙なバランスを保ちながらも、もし万が一それが崩れたとき、あまねく世界という世界はすべて否定され、闇へと消えうせる。

―――誰ひとり気づくことなく

 

 

 

で、2限目「体育」の授業。

「AAプラス、だと。隣りのクラスの谷口が言っていた。」

「はぁ、」

京と凰臥は谷口とキョンが座っている石段の隣りにあるまた別の石段に座って談話していた。ちなみに1500メートル走を終えたばかりのことである。

京は運動はそこそこでも、暑さもあって正直へばっていた。対して凰臥は汗一つ流れておらず、ピンピンしていた。

(なんでこいつ俺と同じ帰宅部なのに・・・)

水でぬらしたタオルを頭にかぶりながら京はAAプラスなる「朝倉涼子」と仲睦まじく彼女を取り巻く女子の一団を見つめる。

朝倉の笑顔を見て、京はああ確かに美人だなとぼんやり感じる。

「朝倉涼子だが、」

凰臥も京と同じく、朝倉涼子をぼんやり見つめながら口火を切る。

「ああ」

気力のかけらのない声で京が相の手を出す。

「彼女はAV女優にふさわしいからだつきをしておる。」

「・・・・・間崎」

「ん?」

「ストリッパーのほうがいいよ。」

京はぬれタオルを顔面にかぶせ、くぐもった声が言う。

「・・・そうか、ところで神原?」

「・・・なんだ」

「この前貸したアレどうだった?」

Aランクに中らずといえども遠からずかな・・・」

それを聞いた凰臥はふっと鼻を鳴らす。かくしてそれは嘲笑であった。

「見識があまいな。あれはBマイナーがいいところだ。」

「そうなのか」

「そうなのだ。上には上があるのだよ。神原くん。」

「・・・じゃあさ、俺にもおまえの言う上の世界を見せてくれよ。」

「だめだ、貴様に真のAランクはまだはやい!ましてやその上、殿堂入りならぬ“神棚入り”など言語道断だ!!」

いまだ未熟の愛弟子に向かって言い聞かせるように凰臥は語調を強めて言った。

「なんだよ」

まわりのものは彼らがいったいなんのランク付けの話をしているかと思うだろう。

至極単純。アダルトなDVDの話を彼らはしていた。その神棚入りとは、間崎凰臥が認めた至高のアダルトなDVDを指す。そして、その名の通りそれは神棚に飾られ、まつられるである。

木の杭でうちつけれた神棚に、女性の裸体の写ったパッケージが飾られているのを想像してほしい。

・・・とてもシュールだろう?

 

京と凰臥は女子の50メートル走をながめていた。明らかにまわりとは群を抜いてものすごいスピードで颯爽と走る一人の女子が彼らの目をひいた。

それこそ、となりで走っている女の子がなんとなくかわいそうに感じるくらいに。

「あの子、足が早いな・・・陸上でもやっていたのかなぁ」

「んっ、どの子だ?」

「ほら、あの子。」

京は黄色いリボンをつけたポニーテールの女の子を指差す。

「ああ、涼宮ハルヒね、有名だぜ。彼女。」

「ふぅん。」

京はブスッとした表情でグラウンドを闊歩する涼宮ハルヒという名の女の子をしげしげとながめる。

「なんだ、気になるのか?あいつはやめとけ。」

凰臥はニヒルな笑みを浮かべながら京に言う。

「評判よくないのか?」

「ただの人間には興味ありません、とクラスの自己紹介のときに言ったそうだ。あとなんでも宇宙人、未来人、異世界人、超能力者とか探しているらしいぜ。」

「ああ電波ね。」

「まあ、そんなところかな。」

 

体育教員が集合の合図の笛を鳴らす。京と凰臥はのそのそとクラスの集合場所まで歩いて行った。

 

 

(間章)――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

少女は忘れられていた。その存在を。

少女は忘れられていた。大切なものたちに。

ならば、少女はなんのために生きるのか、存在するのか―――

それは、少女にもわからなかった。

すべてのものから忘れられてもなお、少女は願い続ける。

とどきますように―――とどきますように―――と。

少女は一人、彫刻刀にぎる。

傷ついた心は数知れず。傷ついた手先は数知れず。

少女は今日も「願い」を彫りつづける。

とどきますように―――とどきますように―――

どうか、いまだわたしを知らぬあなたに、

―――とどきますように。

 

体育の授業終わったあとの数学の授業。凰臥は案の定、机につっぷして寝ていた。

他にも机につっぷしている生徒たちがちらほら見えた。

京は黒板に書かれた数式をながめながらよくわからんが世の中はうまくできているのだなぁと感心しつつ、ふと窓の外をながめる。

(んっ?なんだあれは・・・)

―――なにか中庭を茶色いものが横切ったような・・・

 

授業終了のチャイムが鳴る。凰臥はチャイムが鳴るやいなや、ビクリと目を覚まし、ラァァァァァメンセットォォォォォォォと叫びながら教室の廊下をピューとかけていった。

彼の残響をあとにひきつつ、京は弁当を持って学校の中庭へと向かう。

(たぶん、猫かなにかだろうがな・・・)

 

「気のせいかな・・・」

京は中庭で一人、弁当箱のなかをつつく。まわりには動物どころか人っこ一人いやしない。

・・・・・

無性にさみしくなってきた。

(なにやってんだろ俺・・・)

京は校舎前にある木製のベンチにすわる。ここなら生徒たちの喧騒が聞こえる。

誰もいない静謐な中庭はこたえる。Mな人間、いや大半の普通な人間がもっともこたえるのは孤独なのである。孤独感は痛みとは別のところにあると京は思っていた。だが、なかにはまれに孤独を好むものもいる。嗜好のそれは人それぞれであるからなんとも言えなかったが、少なくとも京は孤独を嫌っていた。なぜだかはわからない。誰かがそばにいてもときたま、孤独感にさいなまれることもある。なぜだかはわからない。

―――なぜ俺はこの世界に対して疎外感を感じるのだろう・・・

 

「ブイ、ブイブイ」

「んっ?」

京は声のする方向、すなわちベンチの隣りを見る。うりぼうがいた。

背に白い毛の縞の入った茶色いうりぼうが。

・・・ん?いや待て、なぜにうりぼう?

うりぼうは京を見上げて、ブイブイと鳴く。

(妙に人懐っこいな)

「ブイブイ」

「なんだよ」

うりぼうは見ていた。明らかに見ていた。京のはしにはさまれた卵焼きをじっと見つめていた。

京は一度卵焼きを一瞥する。

「ほしいのか?」

「ブイブイ」

「・・・ほらよ」

京がはしにはさまれた卵焼きをうりぼうの口先に差し出すやいなや、うりぼうはパクッとそれに食いつき、バクバクとほおばる。

「ぶぃ~♪」

どうやらお気にめしたようだ。おいしいものは人間だろうと動物だろうと垣根がないのだな。うまいものはうまい、そういうこった。京の口元からふっと笑みがこぼれる。

「ほらよ、食いな」

京は弁当の残りをうりぼうに差し出す。

「ブィブィ~♪」

うりぼうはうれしそうに短いしっぽをふると、そそくさに弁当箱に顔をうずめ、京の残飯をガツガツと食べ始めた。

京は校内の自販機で買った紙パックヨーグルトにストローをさし、チューチューと飲む。

「・・・ぬりぃな」

京はふぅとひと息ついて天を仰ぐ。真夏日のさんさんたる陽光にうんざりしながらも

京は今日という日を漠然と過ごしていく。

「ぼたぁぁん!、ぼたーん!、どこにいるの~」

校舎内の生徒の喧騒に入り混じって聞こえる女子生徒の声。

「ぼた~ん、返事しなさいぼた~ん!」

ぼたんはおそらく誰かほかの女子生徒のことなのだろうが、いささかその呼び方のニュアンスというか、まるで自分のペットに呼びかけているようだ。

(愛奴隷とかか?それも悪くない。)

なんてことを京が思っているうちに、女子生徒の声は次第に近くなっていく。

「ぼた~ん!返事しないと晩御飯抜きだからね~!!」

京が横目をやると、さっきからぼたんぼたんと叫んでいる女子生徒が花壇のまえでしゃがみこみ、美しくらんらんと咲き誇る花々をかきわけながら、

「ぼた~ん、ぼたんちゃ~ん。返事しなさ~い!」

・・・いやそりゃ、ぼたんは夏の花だけどよ。花が返事なんてできるわけねぇだろ・・・

花を愛するあまり、自分の頭のなかで擬人化してしまったのか?

そもそも、その花壇にぼたんは植えられてないし―――

京は何となく、シカトしておこうと思ったが、何となくいてもたっていられなくて

「あの・・・そこにぼたんは植えられてませんよ。」

と女子生徒に話かけてしまった。

「へっ?」

「えっ?」

女子生徒の瞳と目が合う。キリッとしたアメジストの瞳。くせのないさらさらの長い髪にレースのワンポイント髪飾り。そしてボン、キュ、ボ~ン。

どこかで見た顔だった。ええと確か・・・・

コツコツコツコツコツコツコツ、チーン。京の脳裏に電撃が走る。

「あ゛~っ!!」

京は女子生徒を指差して叫ぶ。対して女子生徒は顔をしかめて、京の視線から顔をそらす。

「おまえ、俺の脳内ギャルゲのなかのキャラじゃなかったのか!?」

京のいきなりの超展開的発言に、女子生徒は怒りとも驚きともつかない多少困惑の交じった表情で向きなおる。

「ちょ、はぁ!!?あんた何わけわかんないこと言ってんのよ!って、あ゛~っ!!」

女子生徒は京の隣りにいるうりぼうを指差し叫ぶ。

「ぼたんっ!!」

「こいつはぼたんじゃねぇ、うりぼうだ。もとい俺のハニーだ。」

「勝手に人のペットをハニーにしないでよ!」

「じゃあ、あんたが俺のハニーになってくれ。」

「いやよっ!!バカじゃないのっ!!」

女子生徒は顔を真っ赤にし、みけんにしわを寄せて京をにらみつける。

「・・・あんたのペットだったのか。」

「そうよ、悪い?」

女子生徒は息切れしたのか、肩で息をしていた。

「いいや」

京はニヒルな笑いを浮かべて言う。

「ぼたん、返してほしいんだけど。」

「くくっ、どうぞ。“お嬢さん”」

(あれ?こいつ、さっきと雰囲気が違う・・・)

このとき、京と女子生徒の間の空間ははりつめていた。

(・・・何これ?)

この違和感に気付いたのは京の目の前にいる女子生徒だけであった。

まるで、世界が止まっているみたい・・・

「と、とにかくぼたんは返してもらうわよ。」

女子生徒は、いまだ弁当箱に顔をうずめているぼたんに近付く。

女子生徒がぼたんに触れようとすると、突然彼女の二の腕に圧迫感がつのる。

京が女子生徒の二の腕をつかんでいたのだ。

「ちょ、なによ」

女子生徒が京のほうを向くと、彼は鋭い眼光で女子生徒の大きな瞳を射抜いていた。

黒く澄んだ瞳。闇の帳の降りた夜の色。有無を言わさぬほどにその瞳には強い精気が宿っていた。女子生徒は言葉を紡ごうにも紡げなかった。彼女のアメジストの瞳は目の前の得体のしれないなにかを秘めた黒き瞳に吸いこまれていたからだ。

ブィ~

ぼたんが満足げな表情で、京を見上げる。弁当の残りをすべてたいらげたようだ。

それと同時に、女子生徒の二の腕から圧迫感がなくなっていく。

「あっ、俺・・・」

京の瞳から放たれていた強い精気は一瞬にしてなりをひそめた。

「え、いや、うん。」

女子生徒はどもりながらも曖昧にうなずく。彼女が感じていた違和感はほんの束の間のことだった。それこそ、夢か現が判断がつかぬくらいに。

「さ、行こ。ぼたん。」

「ブィ~」

女子生徒はぼたんを胸に抱えてきびすを返して歩き出す。

京はそんな彼女の背をおもむろにながめていた。

「んっ・・・あ゛っ!!!ちょっと、ちょっとちょっと!!」

えっ?と女子生徒は肩越しにふりかえる。

「あんた、俺の自転車弁償してよ!」

「ああ、なんだそのことか」

女子生徒は半眼になってどうでもよさげに答える。

「あれは事故よ、お互いさま。」

「んなわけあるか!だいたいこの学校はバイくっ・・うぐぐ」

「それ以上は言うな、言ったらコロスわよ。うふふ。」

女子生徒はその華奢な手で京の口元をおさえて婉然と微笑みながら言う。

「だいたいあたしはね、あんたにエライものを見せつけられたのよ。それでおあいこ。」

「ぷはっ、なんだよ。エライもん見せられたって。」

京は口元をおさえていた女子生徒の手首をふりはらってから言う。

「あ、あんた、あたしが女だとわかっていてあのときの状況を説明しろと言うの?」

「知らん。ただ言わないならバイうぐぐ、おさえるなっ!あんたの通学のことでチクってやる。」

「チクったら、ほんとにコロスわよ・・・」

しなやかな首筋を傾け、ピクピクと青筋を立てながら女子生徒は京に対して凄んでみる。

「ふん、やるならやるがいいさ。暴力事件の主犯の罪を重ねてあんたは間違いなく退学だ。しかし性的暴行ならばあえて黙秘しよう。」

「ちっ、何なのよ。」

「何なのよはこっちのセリフだ。ちなみに性的暴行についてだが、できればシチュエションとしては・・・」

「あ~も~はいはい。わかったわよ、まったく・・・今日は厄日だわ。」

女子生徒はひらひらと手をふって、はぁ~と嘆息をつく。

「・・・あたしね、あんたが電柱に頭をぶつけて気絶したのを見てびっくりして、それで揺り起そうとしたんだけどあんたなかなか起きなくて、それで・・・」

「それで?」

「みけんのところをグリグリしたんだけど、」

女子生徒は自分のみけんをコツコツと指さして言う。

「なぜ、みけんをグリグリする?」

京のみけんにしわが寄る。

「前に空手部のやつがチラリと言っていたのよ、気絶した相手を起こすにはみけんをグリグリするのがいいって。」

「へぇ~そりゃ知らなんだ。」

京はにべもなく感心した。今度シスカにも教えておこう。たぶん彼女のことだから気絶した相手を放置しかねないが。いや、その可能性が高いが。

「でもあんたは起きなかった。正直救急車呼ぼうか思ったんだけど、すぐにその考えはやめたわ。だって交通事故沙汰にしたらなにかの拍子で学校側にバイク通学がばれかねない。」

「」

京は無言で青筋をピリリと立ててあごをしゃくって相手に続きを促す。

「それに学校を遅刻するわけにもいかなかった。わたしは学級委員。いわゆる模範生徒だったから。」

「ほほう・・・学級委員?ほほう?模範生徒?ほほう?」

京は挑発的な目で相手を見据える。

「いや、なによ!いいじゃない!学級委員なんてあれよ、体裁よ!というか、みんなやりたがらないから仕方なく・・・いやそんなことよりもあんたね、あんたが起きないからわたしはね、」

「ふん、大方見捨てるつもりだったくせに。聞く耳持たん。」

京は小指で耳をかきながらそっぽ向き、ふぁぁとあくびをする。

それを見た(聞いた)女子生徒の瞳はギリっとそれこそまさに身を切るような怖気がするほどに鋭利に豹変する。

すると、いきなり京の両耳をつかみ、満面に凄みを見せながら鼻息がかかるほどにぐぐっと京に顔を寄せる。あまりの凄みに京は圧倒されてのどから上がマヒしたような感覚に陥り、声を出そうにも出せない。

近い、近いってば。

しかし相手がそれを気にしてる様子はない。全身わなわな震わせている。間違いない、我を失いかけている。

一触即発。

どうやら俺は彼女のなかの地雷を踏んでしまったようだ。ちょっと茶化しただけのつもりだったのに・・・度が過ぎた。いやおいたが過ぎたというべきか。

どちらにしろ、彼女はキレかかっていた。

「いい、耳をかっぽじってよおく聞きなさい・・・」

いやん、そんなにつばが飛ばさないで。はしたないわん。

・・・なんて言えたらどれだけラクか。京はどんな状況でも怖気づかないオカマに一瞬このときあこがれた。しかしあこがれはしょせん、幻の一端にすぎない。

「いや、今さっき耳をかっぽじりました・・・」

現実はこうだ。声をしぼりだして結果、しわがれた情けないものになるのだ。

女の豹変ぶりに男をついていけない。いやはや、まったく。なにMじゃないのって?

絶好の至福の時来たりじゃないのって?ああそうだね、相手が女王様だったらいいのにね。ローソクとムチでこうさ・・・

でもね、いかんせんわたしは「鬼」に対しての属性は持ち合わせていないのだよ。

そう、いま目の前に、それこそ目と鼻の先いるのは女子生徒の殻をかぶったまさに「鬼」。うん、女はみな心に「鬼」を抱えているもの。対して男は心に「闇」を抱えている。ほんと、ろくでもないね人間って。

なんて語ってみたり。

 

いま現在、京の心象世界は無間地獄であった。

ああ末恐ろしいなほんと。

 

another  viewpoint:アバリスとアリス)――――――――――――――――――――

アリスはため息をつかざるを得なかった。なぜならこれはあまりにも自分の手にあまるものだったからだ。

今のこの気持ちを言い表すならばそう、核兵器の扱い方をこれっぽちもそれこそアリの触覚ほどにも知らないのに、知る由もないのになぜか無理やり持たされている感じ。

(・・・いや、核兵器のがまだマシね。)

だって、だって核兵器には意志がないのだから。

今わたしの目の前にいるのは・・・いいえ。隣にいるのは、もはや人間の枠からはずれたもの。

魔法使い?違うわ。サイボーグ?何を言ってるの。超能力者?まっが~れ♪って何言わせるのっ!

違うわ、全然違う。わたしの隣にいる「彼女」はそんなんじゃない。そういうんじゃない。

そういうんじゃないのよ・・・

「ねぇ、さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」

「へっ?」

アリスは声のしたほうをふりかえる。と、そこには背中の中まで伸びる亜麻色の髪に大きなイエローダイヤモンドの瞳の、童顔でありながらも不思議な雰囲気を醸し出してやまない少女が立っていた。まあ不思議な雰囲気ってのはアリスの見解だが。

 

少女の瞳は澄んでいた。アリスの金髪よりもずっと。ずっと。ずっとずっとずっと。

魔理沙の金髪でもあの瞳の色には遠く及ばない。

まったく、神様って不公平だわ。と思わせるくらいに少女の瞳は美しかったのだ。

美しかったのだ。美しくて美しくて美しくて美しくてウツクシクテ、

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいズルイ、神様はなぜわたしを選んでくれなかったの?あの瞳は、あのひとみは、アノヒトミは、

わたしはモツベキモノ。あれさえあれば、あの瞳さえあれば魔理沙はわたしにふりむいてくれるかもしれないのに―――

 

少女はサバンナで生きる民族のような白の外套を羽織り、木の枝の上に立っていた。

その隣り、アリスは木の幹にすがりながら木の枝の上に座っていた。

「何、アバリス?わたしなんか言ってた?」

少女の名は「アバリス」と言った。

「それ」

アバリスは薄小麦色の細い指で指す。アリスがその指先の方向、つまり自分の手元を見てみると、

「五寸釘にワラ人形だけど?」

にべもなくアリスは言った。アリスの言葉にアバリスは眉をひそめる。

「んっ」

続いてアバリスは木の幹のほうをさし示した。それに合わせてアリスは顔を右に向ける。

3体ものワラ人形が五寸釘で木の幹に打ちすえられていた。

「・・・あら」

(いつの間に・・・)

「ぶつぶつ意味のわからないことをささやきながらワラ人形をうつのは見た目陰湿ですごく気持悪いと思う。まあわたしの勝手な見解だからなんとも言えないけど。というかいつも思うんだけどそれってどういうおまじないなの?」

アリスは胸の赤いブローチをなんとなしに触れる。青色のワンピースをギュっとつかむ。

頭のカチューシャはずしたり、つけたりする。

「アリス?どうしたの?さっきから何してるの?」

アバリスは怪訝顔になる。

「え?いえ、何でもないわ。そ、その、さっきのおまじないは“気持ちを落ち着かせる”ための、そ、そうよわたし独自のおまじないよ。」

アリスは内心ものすごく動揺していた。動揺しすぎてついつい狼狽してしまった。目が泳ぐ。アバリスを直視できない。できないのでうつむくしかない。